インスピレーション
第2章
車の窓から通り過ぎて流れていく田んぼには、小さな緑が顔を出し始めていた。
日射しが照りつけているのに雨が降っている。
日本海側の地域に多い時雨だった。
隣で車を運転している男のビンからアゴまで伸びている黒いヒゲと着ている白衣が対照的だった。
今、次の診療先の酪農家へ向かっている。
「聞いていいですか」
「ん?」
男は無愛想に言った。
「診察の時、最初に、いつもじっーと牛を見てますよね」
「ああ」
「どこが悪いかわかるんですか?」
「だいたい、わかるよ」
「え?見ているだけで?」
「そう。牛が何を言いたいのか」
「ほんとですか?」
「しゃべれないけど。苦しいよー。ここが痛いよーって」
「ホントに?」
「ホント」
「それって、洞察力って言うんですか?」
「そんな大したもんじゃないけど」
日射しが照りつけているのに雨が降っている。
日本海側の地域に多い時雨だった。
隣で車を運転している男のビンからアゴまで伸びている黒いヒゲと着ている白衣が対照的だった。
今、次の診療先の酪農家へ向かっている。
「聞いていいですか」
「ん?」
男は無愛想に言った。
「診察の時、最初に、いつもじっーと牛を見てますよね」
「ああ」
「どこが悪いかわかるんですか?」
「だいたい、わかるよ」
「え?見ているだけで?」
「そう。牛が何を言いたいのか」
「ほんとですか?」
「しゃべれないけど。苦しいよー。ここが痛いよーって」
「ホントに?」
「ホント」
「それって、洞察力って言うんですか?」
「そんな大したもんじゃないけど」