君にあいらぶ
プロローグ
どたどたどた…
ついさっきまでは静まり返っていた広い廊下に、走っているらしい乱雑な足音が響いた。
この時間になると、いつも決まってそのうるさい足音が響く。
実はこの無作法な足音の主はこの家のお坊ちゃん、悠だ。
けれどお手伝いさんも執事さんも何も言わない、見てみぬふりだ。
まぁ、あんまりうるさいとやんわりと注意を施す時はあるけれど。
だってそれでも絶対やめないし、やめるわけない。
かくれんぼに勝つためにはわずかな奔走も必要なのだから。
そう、今にも鬼はやってくる。
少しずつ、確実に。
そして私をこの暗くて狭いクローゼットの中から連れ出してくれるのだ。
ばたばたばた…
足音はどんどん近くなってきた。もうほとんどの場所を探し終えたらしい。
どたどた…
ごくり、と一度唾を飲み込んだ。
もうすぐそこにいる。
私を暗闇から日の当たる明るい外の世界に連れ出してくれる鬼が。
足音は徐々にこちらに向かってくる。
ガチャ!