アラサーだって夢をみる

「握手だけでいいの?」

「え?」

「サインいらないの?」

意外そうに問われて、慌てて答えた。

「あ、いえ、今何も持ってなくて」

まさか本人に会えるなんて思うはずもないし。
三神さんは「そう」と頷いて言った。

「あのさ」

「今から俺飯食うんだけど一人で食べるのイヤなんだよね」



「一緒に食べない?」

「一緒に……?」

一緒って、私と?
三神さん、誰かと一緒じゃないのかな?

「三神さん、お一人なんですか?」

「そう、お一人」

ぷっと吹き出した三神さんは、

「サインでも何でもしてあげるからさ」

と言った。
何でもという言葉が脳内で反復して、私はまたわけがわからなくなった。

「ダメかな?」

ああ、これはやっぱり夢なのだ。
現実感がなくなって、宙に浮いてるみたい。
夢の続きをもっと見たくなって、私は「行きます」と答えた

「良かった」

三神さん嬉しそう。
私も凄く嬉しくなってきた。

「あ、ちょっと部屋に取りに行きたいものがあるので」

どうせなら写真集にサインして欲しい。

すぐ戻りますと言おうとしたが、何故か三神さんは立ち上がった。

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