アラサーだって夢をみる

私は流暢な台詞回しに聞き入っていた。
そういうものなのかと納得してしまって、それ以上考える意欲がなくなる。
三神さんの声は私からまともな分別を奪ってしまうんだろうな。

「少しずつでいいから」

「俺を信じて」

「ね?」

頬に唇が触れて、私はもう一度頷いた。

信じるのが怖かった。
本気になるのが怖かった。

一緒にいることが出来ない恋愛なんて無理だから。
そんな情熱もパワーも私にははないから。

だから、自分の気持ちもセーブ出来ると思ったのに。

でももうだめ。
こんなにも三神さんが好きだから。

私、これからどうなっちゃうだろう。
頭がぼうっとしててまだ考えられないけど。


「それにさ」

三神さんが耳元で囁く。

「一目ぼれは遺伝子の合図っていうじゃん」

「相性も最高だしね」

背中に這う指と耳にかかる吐息に、またぞくりと身体の奥が震える。 

「あーだめだめ」

俺、ほんとだめだと頭を振ってる三神さんが可笑しくて、笑ってしまう。
そんな私に「やっと笑ったね」と言って、素敵な笑顔で抱き締めてくれた。
 

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