愛を待つ桜
如月と双葉は大学時代からの付き合いだという。

当然、如月の親友である聡のことも、そのころから知っていた。
大学時代の様々な武勇伝を聞き、夏海も思わず本音が出てしまう。


「いいなぁ……私もそのころの聡さんに逢いたかったな」

「やめといたほうがいいわよ。21で5歳上のバカ女に騙されて笑いものになってたから。あ、3年前も35で同じことしてたっけ、成長しないわねぇ、あの男も」


そう言うと声を立てて笑った。

国内トップクラスの企業弁護士も、双葉に掛かっては身も蓋もない。


「ねえ、なっちゃんは? どんな大学時代送ったの? 彼氏は?」

「全然。女子高だったから、大学で恋人をみつけようとしたんだけど……」


グループ交際ならともかく、1対1になると気持ちが付いていかず、結局、交際には発展しないままだった。

そう、3年前の春までは。


「へえ、じゃあ、ひょっとして一条くんが初めての相手?」

「ん、そうなんだけど……ね」

「あんなおっさんに、勿体ない! メチャクチャ喜んだでしょ、アイツはそういう女の子と縁がなかったはずだから」


それはどういう女性と縁があったのだろう?


夏海はそのことを気にしつつ、


「まあ、最初は、ね。そう言って……」


双葉に合わせて軽く返事をしていたつもりだった。

そのとき、いきなり3年前のことが夏海の心に浮かび上がる。

急激に胸の底から何かが押し上げられ、夏海は逆らえず、声にしていた。


「最初は、凄く大切にしてくれて、一生自分だけでいてくれって。でも、急に騙されたって。初めてっていうのも嘘なんだろう……って」


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