愛を待つ桜
「仕事で来たんだ。ビジネスランチの予定がキャンセルでね。一緒していいだろ?」

「ええ。それは構いませんが。おひとりですか? 秘書もお連れにならずに?」

「いや。先に帰した。男同士で食うぐらいなら兄貴と、って思ったんだけどね」

「聡さんは昼過ぎに戻られる予定です。あの……男同士って」


夏海の知る限り、匡は『秘書は女性に限る』というようなことを言っていたはずだ。


「実はさ、結婚が決まって副社長に昇格したんだけど……親父から、秘書は男にしろって厳命されちゃってさ」

「はあ、なるほど」


社長の素晴らしい作戦に思わず苦笑する。


「横暴だよなぁ。若いころと違ってそんな無茶しないって」


夏海の返事がないことなど、全く気にしない様子だ。

匡は妻や生まれてくる子供のことを話し始め、しばらくの間、ふたりは他愛ない世間話に終始する。


夏海はふと思い出したように、真面目な顔で切り出した。


「あの、匡さん。ひとつお聞きしたいことがあるんですが……」


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