愛を待つ桜
夏海が『別れ』を口にした瞬間、聡の形相が変わった。


「匡の元に行くのか? それとも、他に男がいるのか!? 認めない……絶対に許さない」


そう呟くと、聡は夏海に掴み掛かった。

その手を振り払い、キッチンからリビングに逃れる。今夜の聡は尋常ではない。

夏海は札束を投げつけられた夜を思い出し、彼が怖くなった。


「明日……起きてから話しましょう。あなたは……酔ってるわ」

「だから何だ! お前も、俺を馬鹿にしてるんだ。……クソッ!」


腕を掴み、引き摺り倒すように聡は夏海を床に組み伏せた。
リビングのセンターマットに顔を押し付けられ、夏海は声を震わせる。


「止めて……こんなのはいや……」



聡は自分がとんでもない真似をしていることに気付いていない。
酒に酔って、では済まない所業であった。


「黙れ! お前は俺の妻なんだ。俺の言うとおりにしろ! 逆らうなら、悠を取り上げて裸で叩き出すぞ!」


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