愛を待つ桜
辺りに静寂が漂う。しかし、誰も口を開かない。


さすがの匡も、嘘を重ねることに躊躇したようだ。かといって、彼には真実を告白する勇気もなかった。


「やっぱり。はっきり答えられないんじゃない。どうしてなの? 3年前に終わったことなら、どうして最初に話してくれなかったの? 黙っていたのは、これからも関係を続けるつもりだからでしょう!」


由美の質問攻めに匡は弱りきっていた。
両手を上げて、まるで降参のポーズだ。


「いい加減にしろよ、由美。お腹の子に障るだろ? もう止めてくれ」

「あなたにとって、この子は要らない人間なんでしょう? この先、私が女の子しか産めなかったら、私もこの子も捨てるつもりなのよ!」

「そんなわけないだろう。誤解なんだ。全部誤解だよ。なんでそんな発想になるんだ。もう、ホント勘弁してくれよ」

「この人に会わないで。お願い、2度と」


次の瞬間、由美はくぐもったような呻き声を上げ、お腹を押さえてその場にうずくまった。

極度の興奮が、陣痛を引き起こした。だが、まだ臨月に入ったばかり。慌てて救急車が呼ばれ、由美は運ばれて行った。


「お願い……あの人と手を切って」


由美はストレッチャーの上で、最後まで言い続けたのだった。




―最終章に続く―

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