愛を待つ桜
本当は不安だ。資格はあるが経験はなく、それが3年前も就職に結びつかなかった。


(雇ってもらえたら良いのだけど……)


今度は行政書士としての経験があるから少しは就職に有利だろうが、夏海には他にもハンディキャップがある。
どちらにしても、ハローワークに通うことはしたくなかった。



築何10年だろう。昭和を思わせる古めかしい、良く言えはレトロなビルの4階に、高崎の事務所はあった。
4階建てで、今どきエレベーターも付いていない。
客は2度目からは必ず、1階の喫茶店での打ち合わせを希望したものだ。

今日で、事務所の片付けも終わり。
所長が紹介してくれた再就職先から、連絡はまだない。
入院中の所長にそれを言うのも躊躇われて……自力で探すしかないか、と思い始めていたときだった。

――カタン。

もうほとんど仕事もないため、夏海はゆっくりと出社した。
そんな彼女が事務所に入ると、奥の給湯室から人が出てくる。


「安部さん? どうして?」


それは20年近くもパートの事務を務めたという安部昌子だった。
夏海の軽く倍は、横に風格がある。4人の子供を育て、7人の孫がいるという子育てのエキスパートだ。夏海にとって頼れる存在であった。


「ああ……なっちゃん、荷物を取りに来たら、お客様でね。お茶、出しておいたわよ。所長室のソファに通してあるから、後よろしくね」

「お客って?」


業務関係の引継ぎは全て終わったはずである。新規の客など論外だ。気色ばむ夏海に、安部は嬉しそうに言った。


「なっちゃんの再就職を所長に頼まれたって。弁護士さんって言ってたかな」

「ああ、わざわざ来てくださったのね。連絡がないから、履歴書で落とされたんだと思ってたわ。採用されたら、明日からハローワークに通わなくて済むんだけど」


喜びより不安が先に立つ。
弁護士というものに偏見を持っているのかもしれない。


「なっちゃんなら大丈夫よ。頑張って!」


< 17 / 268 >

この作品をシェア

pagetop