愛を待つ桜
「落ち着くのはお前のほうだ。どうしたと言うんだ。うちの事務所が訴えられたか? それとも倒産でもしそうなのか? 今の俺は多少のことじゃ驚かんぞ」


軽口でも叩いていなければ平静さなど保てない。

本音を言えば、如月を相手に泣き言のひとつも言いたいところだ。
だが親兄弟の前で、これ以上無様な姿は晒せない。第一、匡から聞かされた以上に、何を驚くことがあるだろう。

しかし、耳から入ってきた現実は聡の想像を越えていた。


『警察から電話があった。着信履歴を辿ったってことだ、お前の携帯は切ってあるからだと思うが……』

「何の話だ?」

『いいか、落ち着いて聞けよ。夏海くんが事故に遭ったそうだ。救急車で荒川の医大付属病院に運ばれた、と……おい! 聞いてるか!?』

「事故、だと? 何の……事故だ?」

『交通事故だ。三軒茶屋の国道とか言ってたが……詳しくは判らん。ただ、目撃者がいて、自分から車道に倒れこんだ可能性もある、と』


犯した罪を突きつけられ、聡の中で何かが壊れた。


『おい、一体何があったんだ? どうして深夜零時も回って、なっちゃんがひとりで三軒茶屋なんかを歩いてる? 悠くんは今どうなってんだ? おい! おい……聡、答えろ!』


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