愛を待つ桜
~*~*~*~*~


「ママぁ~ゆうくんのパパだよ。ほいくえんでパパのえをかいたよ」


鯉のぼりの時期が過ぎて、ちょうど父の日が近づいていたような気がする。

悠も小さかったので記憶は正確ではない。だが、その絵を見せた瞬間、母が泣き出したのだ。


母の夏海《なつみ》は悠にとって自慢の母だった。

保育園でも皆から「ママ美人だね~」と言われて嬉しかったことを覚えている。悠の記憶の中で、母が泣いたのはその時だけだった。


「悠くん、ごめんね。ごめんなさい。ママを許して」


ポロポロ涙を零しながら、母は悠に抱きついた。ギュッと抱き締めて何度も何度も謝ったのだ。

悠はパパの絵を描いたことを後悔した。

自分がパパの絵を描いたから、母が泣き出したに違いない。大事な母を自分が泣かせたのだ、と。


「ママぁ、ママぁ、ごめんなさい」


母に抱きつき、もう描かない。2度と描かないから泣かないで――そう叫んでいたと思う。


あの頃まで、確かに悠に父はいなかった。

ずっと長い間忘れていたけれど、納戸で鯉のぼりを見つけて、思い出したのだ。

庭に立っている鯉のぼりは悠の為のものではない。悠の為に母が買ってくれた鯉のぼりは、先端に風車の付いた、この小さなものだった。


~*~*~*~*~
< 245 / 268 >

この作品をシェア

pagetop