愛を待つ桜
――コンコン。


ドアをノックする音に、あかねの攻撃が止まった。
絶妙のタイミングで双葉がお茶を持ってきてくれたのだ。

夏海は立ち上がり、双葉からトレイを受け取る。


「あの、悠は?」

「大丈夫よ」

「……すみません」

「頑張って!」


ヒソヒソと囁き合い……去り際に、双葉はウィンクと小さなガッツポーズを見せてくれた。
夏海も、彼女の気遣いに精一杯の笑顔で応える。


ドアが閉じられ、お茶を配り終えた夏海が席に戻った。

それを見計らい、再び口を開こうとしたあかねに先んじたのは夏海だった。


「全て、私が悪いんです。奥様、申し訳ありませんでした」


そう言いながら、両手を膝に揃え、手の甲に額が付くほど頭を下げる。

聡は基本的に嘘の苦手な人間だ。
その仕事振りを見ても判る。
業務上、止むを得ないときは、ポーカーフェイスで黙り込むのが彼の手口だ。

相手の情報を引き出せるだけ引き出し、自分に都合の良いように誘導していく。
3年前もきっとサインは出ていたのだろう。
愚かにも、恋に不慣れな夏海が、それを見逃してしまったのだ。

でも、今度ばかりは彼の思惑通りに動くわけにはいかない。
いつまでも愚かな小娘のままでは、大事な子供を奪われかねない。

咄嗟に計算して、夏海は嘘を吐く。


「聡さんはご存知なかったんです」

「夏海?」


聡の声は不安そうだ。


< 93 / 268 >

この作品をシェア

pagetop