ランデヴー
「あ、その……ごめん、今の――」


「俺は他に大切な人がいるのに、別の女と付き合ったりなんかしない」


突然強い口調でそう言われ、私の胸は鋭い刃に貫かれたかのようにズキンと痛んだ。


だってそれって……何だか陽介のことを言われてるような気がしたからだ。



「いや、うん、そうだよね……。ごめん」


不愉快な気持ちは一気に影を潜め、私は左手で髪の毛をいじりながら、居心地の悪い思いで目を逸らした。



そう、普通はしない、そんなこと。


非常階段で切り出された別れ話を再び思い出し、胸がキュッと締め付けられる。



不意に込み上げる涙を隠そうと顔を背けた途端、持っていたペンが手元から滑り落ちた。


私は「あ……」と小さく声を上げ、床に跳ね返り奥へと転がり落ちるペンを追いかけて、慌ててデスクの下に潜り込む。


目的の物を見付け、それを拾おうと手を伸ばしたその瞬間。



「いたっ」


鋭い痛みが私の右手に走った。


デスクの劣化した部分から金属が飛び出していて、運悪くそこに指を引っかけてしまったらしい。


反射的に引いた手を見ると人差し指から血が滲んでいた。
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