ランデヴー
ハッと我に返って顔を上げると、少し驚いた顔で私を見ている倉橋君がいた。


そしてそんな私に、言いづらそうに口を開く。



「あの……香川さんと何かあったんですか?」


心配そうに私を見る倉橋君に言える言葉なんて何もなくて、私はキュッと唇を噛み締めた。



やっぱり倉橋君には言いたくない……。


別れ話のことなんて……。



「……別に……もういい、戻る」


唐突な疲労感に襲われ俯きながらそう言うと、私は倉橋君の横を通り過ぎて出口へと向かった。


これ以上この話をしても、今は無駄だと感じたからだ。



だが倉橋君はそんな私の腕をグイッと掴んで、その場に留まらせる。


反射的に振り返ると、眉をひそめて悲しそうに私を見る倉橋君の瞳にぶつかった。



「俺は……仕事を教えてくれるからとか、いつも隣にいるからとか、そんな理由だけで坂下さんのことを好きになった訳じゃないです」


静かにそう話す倉橋君に真剣な眼差しで見つめられた私は、一瞬胸を突かれてその腕を振り解けなかった。
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