ランデヴー
「あぁぁぁぁ……」
と。
席に戻ると右隣にいる倉橋君の方から、盛大な溜め息が吐き出されるのが聞こえた。
椅子に座ったばかりだったがこれはもう無視できるレベルではなく、私はそんな彼の方に顔を向け、「どうしたの?」と尋ねる。
「あ……すみません……。関数が……どっか行っちゃいました……。しかも、気付かないまま保存……保存、を……」
倉橋君はそう途方に暮れたような顔でうなだれている。
その弱った横顔が何だか可愛くて、私は椅子をスッと滑らせると倉橋君の目の前のモニターを覗き込んだ。
「あー……それね、ちょっと厄介な関数が組んであるんだよね」
そのファイルは、既にこの会社にはもういない鈴木さんが作った代物で、私もその難解な関数を理解するのに結構な時間を要したものだった。
「ちょっとそれ、1回閉じてみて? 組み直すから」
「はい、すみません」
倉橋君は私の言葉に素直に従い、ファイルを閉じる。