ランデヴー
「私もやめておけばいいのに見ていられなくて、止めに入ったんです。後輩もいたし、他の登山客だっているのに、恥ずかしいからやめなさいって。そうしたら彼女、突然帰るって言い出して、来た道を戻ろうとした。それを夫が引き止めて……実はその後のことはあまり良く覚えてないんですが……」


響子さんは目を宙に彷徨わせて考えるような素振りをしていたが、小さく首を傾げてポツリと呟くように続けた。



「……気が付いたら私、崖から落ちてた」


ドクン、と大きく心臓が跳ねた。


ドキドキと激しく鼓動を繰り返す。



そして、私はこれこそが話の核心なのだと気付いた。


背筋をゾワッと何かが伝った気がして、身震いする。



瞬間、急に何かがぶつかるような音に驚き外に目をやると、いつの間にか降り出していた雨が窓ガラスを打ち付け、既に暗くなった道路を濡らしていた。


大粒の雨が激しく窓を叩き、濡れた道路は光を反射して波紋がいくつも広がっている。



傘……やっぱり取りに戻れば良かった。


そんなどうでもいいことが、ふと頭に浮かんだ。
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