ランデヴー
「幸い足から落ちたからか、命に別状はありませんでした。でも……どうしてこんなに辛い思いを私だけが背負わなければならないのって。それからの日々は絶望でした。後から聞いた話によると……夫は足を踏み外しそうになった彼女を助けたそうです。その弾みでどちらかの体が私に当たって、私だけが落ちたのね」


「…………」


「確かに、不幸な事故だと言えばそれまでかもしれない。でも私はどうしても納得できませんでした。長い入院生活を余儀なくされて、辛いリハビリだって待ってる。大事な就活の時期だったのに、人生をめちゃくちゃにされた。その時は許せない、って……そう思ってました」


響子さんはそこまで一気に話して「ふぅ」、と溜息を吐くと、目の前のコーヒーをまた一口飲んだ。


そして「冷めちゃいましたね」と呟き、卓上のボタンを押して店員さんを呼び出した。



「コーヒーのおかわりと……あなたは?」


急にそう問われ、私は咄嗟に「アイスティーを」と注文する。



「ごめんなさいね、長々と。退屈じゃない?」


そう聞かれ、若干ぼんやりとした頭でふるふると首を振った。


退屈な訳がない、陽介に関わることなのに。



でも想像もしていなかったことを聞かされ、頭がついていかない。


ただ鼓動だけが、延々早いリズムを刻んでいた。
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