ランデヴー
「でも……彼はあなたと富士山に行ったんですよね」


急に響子さんが、真顔でポツリとそうこぼした。


その目は哀愁を秘め、心なしか少し潤んでいるようにも見える。



私が無言のまま頷くと、響子さんは突然その頭をゆっくりと下げた。



「有り難うございます……夫と山に行ってくれて」


突然のことに私は動揺を隠せず、目を見開いて彼女を見ていた。



「夫はずっと山に行きたいと思っていたはずだから……。私はもう2度と山へは行かない。夫もきっと行かないつもりだったと思います。でも……あの人本当に山が好きだったの。私は……彼から全てを奪ってしまった」


呆然と目の前の出来事を見つめる私の前で響子さんは静かに頭を上げると、真っ直ぐな眼差しを向けた。


その酷く威厳のある瞳に、一瞬呑まれそうになる。



「でも……あなたも彼も、もう十分楽しんだでしょう? そろそろ夫を……陽介を、返して下さい」


彼女はそう言って、再び私に頭を下げた。
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