ランデヴー
――あの日は、朝からずっと雨だった。


陽介と一緒に食事をする約束をしていたから、私は片付かない仕事を無理矢理何とかして切り上げ、急いで会社を出ようとしていた。



傘を忘れたことに気付いたのは、1Fに着いてからだった。


フロアに置いて来てしまったそれを取りに戻ろうと踵を返した所で、陽介とバッタリ出くわした。



私は嬉しくなり、そのまま陽介の大きな傘に入れてもらうことにした。


好きな人との相合い傘程、緊張するものはない。



でも私はその緊張すら、何だか心地よく感じていた。


逸る鼓動も、切ない気持ちも、全てが陽介のことを好きだからこそだ。


私はその恋い焦がれる気持ちさえをも、愛しく感じていたのだ。



だが……陽介は結婚している。


その1点だけが、私の心を黒く塗り潰す。



それでも時々ぶつかる肩も、すぐ傍にある笑顔も、全ては現実でそこにある。


手を伸ばせば届く場所に、私の望む人がいる。
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