ランデヴー
すると、「坂下さん」と。
思いがけずそう呼び止められ、思わず足を止める。


ドキンと、嫌でも心臓が激しく脈打つ。


恐る恐る振り返ると、陽介は眉根を寄せて思い詰めたような表情で私を見ていた。



「体調悪いって聞いたけど……大丈夫?」


その優しさが罪だ、と思う。



別れた相手をそんな風に気遣わないで欲しい。


想いが残ってしまう。


いつまでも吹っ切ることができない。



「はい。ただの風邪ですから……」


「そう……。もういいの?」


「だいぶ……治りました」


「良かった。あと……ちょっと話があるんだけど、今時間あるかな?」


陽介からの突然の提案に、私は驚いて目を見開いた。



今更、何の話があると言うのだろうか。


仕事の話だったら……わざわざこんな言い方はしないだろう、と感じた。
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