ある雪の降る夕方。
「タケル」
名前を呼ぶ。
桃色の中、その顔があたしを捉える。
お互い一瞬、時が止まった中にいた。
でもやがて、お互いの欠片に気付き、ゆっくりと笑顔を作る。
あたしの右耳と、タケルの左耳。
桃色の中、雪の様な銀色のそれが優しく光る。
「香」
階段の上で、タケルがあたしの名前を呼んだ。
あの日、違う方向に進んだつま先が、あたしの方に向かって階段を降りてくる。
あたしも真っ直ぐに、その愛しい笑顔に向かって足を踏み出した。