運命の人
───帰るとはいえ、せっかくきたのだからそのままきた道を戻るのもなんだか寂しいなぁ

香織はそう思い、遠回りにはなるもののそのまま桜並木を突っ切って歩く。



明かりが消えたとはいえ、街灯とまばらに残る花見客持参の懐中電灯とが陽気な姿も照らし出し暗闇の恐怖は感じずにすむ。


「あれ?お姉さん1人?一緒に呑もうよ~」


大学生の男の子が香織に話しかけてくる。


「ちょっと、やめなよ」

「いいじゃん。ね、呑もうよ」


おなじグループの子が止めるも男の子はしつこく誘ってくる。

香織はそんな彼の声など届いていないかのように、それでいて少し速めに歩く。


ようやく男の子の声も聞こえなくなり、香織は振り返り確認する。

どうやら諦めて仲間と楽しく飲んでいるようだ。


それを確認し、今度はゆっくり歩き始めた。


楽しんでいるのはもっぱら彼らだけで、それ以外の花見客は香織と同じように帰っているか、片付けの最中である。



桜並木ももうすぐ終わり国道も見え始めた頃、香織の歩が突然止まった。


目線の先には一つのグループが片づけをしている。

そして、その中の1人を瞳に映していた。


「さくちゃん」


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