琥珀色の誘惑 ―日本編―
「何? 今の何? なんなのよ、訳判んない! お父さん、冗談だよね? ね?」


舞はどうにか笑おうと必死だ。

怒ったり泣いたりしたら、本当になりそうで怖い。 

そんな舞に向かって、父は真剣な表情で滔々と語り始めた。


「十五年前、わが国はどうしても産油国であるクアルンと友好条約を結ぶ必要があったんだ。その交換条件で、日本人の花嫁が欲しいと言われて……」


なんでも、湾岸戦争の終結と同時に日本のバブル経済が崩壊したという。

日本の資源は無きに等しい。九割以上が輸入に頼っている。当時は、石油への依存度が今より高く七割を超えていたという。

それで、クアルンのご機嫌を取りたい、という気持ちは良く判る。

だが……。


「ちょっと待ってよ、なんで、日本人なわけ?」

「ミシュアル殿下のお母上が日系人だそうだ。国王陛下の第四夫人でね。まあ、その辺りの事情は判らんが……。ともかく、お前に白羽の矢が立って、二十歳を過ぎたらミシュアル殿下が迎えに来ることに決まってしまったんだよ」
 

などと言いながら、父は小冊子を差し出した。

クアルン大使館発行、と書いてある。

一枚めくると、ドンッとミシュアル王子の写真が掲載されていた。

その姿はさっき見たスーツ姿とは全く違い、彼は民族衣装に身を包んでいる。

横の注意書きに、『頭に白いグトラを被り、それを黒いイガールで巻いて止め、全身を白いトーブで覆い隠すミシュアル王太子殿下』とあった。


(う……悔しいけど、なんて凛々しいアラブの王子様スタイル!)


コトが結婚とか婚約でないのなら、舞はそのままミシュアル王子の写真を壁に貼り付けようか、と思ったくらいだ。


< 20 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop