琥珀色の誘惑 ―日本編―
どう考えても住んでる世界が違う。
舞のフリーズした頭が叩き割られた気分である。


(絶対無理……だって話が通じないもの)


とても同じ日本語で会話しているとは思えない。

心細くて泣きたいところを、舞はグッと踏ん張った。
丸めた背筋をグイと伸ばして、胸を張ってみせる。


「あの、なんでここに?」

「車だ」

「……いえ、だから、どうしてあなたがここにいるんですか?」

「君が検査を受けたことを確認に来た。少なくとも、私に恥じる行いはなかったようだな」


何をやっていたとしてもあなたに恥じる必要はないでしょう、と言えば、不敬罪だろうか?

お手打ちになるのは嫌だし、国際問題とか言われたら最悪だ。
経済制裁とか、輸出停止とか……舞は心理学部の学生で、将来はスクールカウンセラー志望である。

経済関係や世界情勢はそれほど明るくないので、具体的にどんなことになるのがピンと来ない。


その時、先ほどの院長が特別室に姿を見せた。


「この度は、わざわざ王太子殿下に足をお運びいただき、恐悦至極に存じます。こちらのお嬢様の検査につきましては、万にひとつの間違いもございませんよう、何重にも確認させていただく所存でございます。検査結果は後日改めましてご報告をさせていただきます」


そう言いながら、体をふたつ折りにする勢いで頭を下げる。


だがこの院長、丁寧なのは言葉遣いだけのようだ。

思えば母が居た時もそうだった。
舞の全身を舐めるように見る視線と言葉の端々に、何処か下品さが漂う。
きっと舞のことを、シークの愛人になってハーレムに入る女だと思っているのだ。

検査のデータなり何なりを、このいやらしい男も目にするのか、と思うと舞は背筋がゾッとした。

何か言い返してやりたいと思うのに……言葉が出ない。

どうせこんなデカイ女は外国人でないと相手にもされないと思っているんだ……なんて、被害妄想だと判っていても、そんなことしか思い浮かばない。



だが直後――。

絶対的な権力と自尊心に裏打ちされた声が、特別室に響き渡った。


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