My Little Baby【短編】
走り疲れ、息が続かなくなって立ち止まる。
家に帰ることすら思いつかず、着いたのは小さな公園だった。
いつもここで泣いてたら遼ちゃんが来てくれたっけ…
そうしてここで泣いていたのはとうの昔のことだというのに、泣きながら無意識にここに来てしまったらしい。
「何、やってんだろ…」
ここで泣いても、迎えに来てくれる遼ちゃんはもういないのに。
自嘲気味に呟いても、答える声はない。
止まらない涙と弾んだ呼吸をそのままに、人気のない公園のベンチに座り込んだ。
思い出したくないと思っても、口元を拭った遼ちゃんの手の甲に張り付いた赤い口紅が瞼の裏に焼き付いて離れない。
ふと自分の唇を指でなぞる。
口紅も何も付けていない唇は、なぞったところで何も指に残すことはない。
綺麗な顔、細身なのに豊満な体、赤い爪と赤い唇。
遼ちゃんにしなだれかかるあの女の人を見たのはほんの少しの間だったというのに、詳細に覚えている自分に嫌気がさす。
彼女の持つどれもが自分にはないもので、大人と子どもの違いを見せつけられた気がした。
遼ちゃんにとって、やっぱり相応しいのはああいうオトナな女の人で。
自分なんか、好きになってもらうどころか同じ土俵にも立つことができないのだと。
…当たり前だよね。
「…っふ、う」
泣きたくない。
あの人をおいて来てくれるはずなんてないのに。
こんなところで子どもみたいに泣いて、遼ちゃんが来てくれることを期待して、これ以上みじめになりたくない。
「…ねぇ、どうしたの?一人?」
そうして、こみ上げる嗚咽を抑えるのに必死だった私は、知らない人がすぐ傍に近づいてきたことに気付いていなかった。