My Little Baby【短編】
タクシーがアパートの前に止まって、カツン、カツンと階段を誰かが上ってくるのがわかった。
暗くて顔も見れないけど、小さいアパートのこの階の住人はそう多くはない。
遼ちゃんかもしれない。
ドキドキしながら人影を見て、息が、止まった。
綺麗な大人の女のヒトの腕が遼ちゃんの腕に絡みついて。
それを振り払いもせずに許している――
それどころか、次の瞬間女の人が遼ちゃんに、キス、して。
それに応えるように、遼ちゃんが激しく舌を絡めて。
深くなる二人のキスに、私は茫然と見つめることしかできない。
うそ、うそ、なに、どうして――
見ないほうがいい、と頭の奥で警報が鳴るけど、何も考えることなどできなかった。
「…部屋、行くか」
ようやく二人の影が少し離れたけど、ぼんやりした思考の中に飛び込んできた言葉に現実に引き戻される。深夜に女の人を部屋に入れて何をするつもりかなんて、考えるまでもなかった。
もう、耐えられない―――
「み、ちる…」
ようやくこちらに気付いたらしい遼ちゃんの声。
甘えたような声で私との関係を聞く女の人に答えた遼ちゃんの声に、私の心はもう限界だった。
『知り合いなんかじゃない』
「みちる!!」
私の大好きな声で、私じゃない人とキスした唇で、私を呼ばないでよ――