ギャルバン!!! 2nd The Re:Bandz!!!!
日が昇り始めた青白い朝の気配にアタシは目を覚ました。
不規則な睡眠のせいでその後は寝付けなくて、ゆっくりと静かにベッドを抜け出す。
「ん? ………エル?」
「あ、リンナごめん。トイレ、行ってくるね」
「………あい」
寝ぼけたリンナの顔は普段では見られないくらいにかわいい。
こんな顔を見たことがあるのは母親の陸さんとアタシ達くらいだ。
「まるで姉妹みたい」
ベッドに残してきた三人はバンドをやろうと始めてからは仲間で、アタシのかけがえのない友達で、大切な存在だ。
バンドを組んでからいろいろなことがあって、楽しいことも辛いことも、時々離れたこともあったけれど、一緒に過ごしてきた。
ほんとうの意味で、アタシ達は家族だ。
「すごく安っぽいドラマみたい」
アタシはトイレから出てくると自分で笑ってしまった。
使い古した言葉ではアタシ達の関係はちゃんと語れない気がする。
仲間、友達、家族。
当たり前に存在していても、当たり前じゃない存在。
アタシに母親がいなかったように、リンナに父親がいないように。
「―――リンナ?」
リビングに入るとリンナがソファにすわっていた。
「何か寝れなくなっちゃった。エルのせいだね」
笑いながらリンナはテレビを点けた。
「ユキちゃん、今日も黒いなぁ」
リンナはそう言って色黒のキャスターが伝える天気を聞いていた。
「そうだ、エル。コーヒーいれてよ。お父さん譲りで得意でしょ?」
「いつものインスタントでもいい?」
このカエデのマンションにはコーヒーミルも豆もない。
粉のコーヒーしかない。
「アタシ、ちゃんとしたコーヒーのいれ方は知らないよ」
「え? そうなの?」
「うん。今度帰ったら教えてもらうよ」
その時までに必要な物を用意しておこう。
アタシはマグカップにインスタントの粉を入れてお湯が沸くのを待った。
「ねえ、リンナ。変なこと、言っていい?」
「うん。いいよ」
リンナはテレビを聞き流しながら自分の載っている雑誌を読んでいた。
「―――今まで、ありがとね」
「え? ………どういうこと? また解散するって言わないよね?」
雑誌を見ていた顔を勢いよく上げて真剣な表情を向ける。
「ごめんごめん。そんなつもりじゃないよ。解散はしない」
「驚かせないでよね。ただでさえ、もしかしたらって三人で話してたんだから」
「そうなの? 心配させてごめん」
そんなことを話していたなんて想像もしなかった。
「デビューしたからそれはないって信じてたけど。ほら、ワタシ達メジャーデビューして解散したバンドの娘じゃん。あり得なくはないよねって」
「大丈夫だよ。アタシは妊娠してないし。リンナこそどうなの?」
「どうって、妊娠? ないない。ここ何年も男いないもん」
「ここ何年ってその前はいたの?」
「あー、読者モデルになる前ね。だから、中学生の頃かな。事務所入る前に別れたけど」
「そうなんだ。知らなかった」
「この話したの、友達のなっちゃんとエルだけ。ミクちゃんとカエデには内緒ね」
リンナがソファ越しに微笑むと小さな赤いケトルからけたたましい音とお湯があふれた。
「おはよー。二人とも早いね。何してんの?」
「エルがコーヒーいれてくれるって。インスタントだけど」
「えー、いいの? ありがとう。ミクー! エルがコーヒー作ってくれるってー!」
「………はーい」
寝ぼけたミクの声が小さく聞こえた。
アタシは四人分のカップにお湯を注いでいく。
「それで、リンナ。何がウチらには内緒だって?」
「聞こえてたの?」
「うん。でも最後だけね。ウチらに隠しごとはなしだよ」
「わかってる。昔の話だよ。読者モデルになる前のカレシの話」
「ああ、それって中学の時の話でしょ。ウワサにはなってたよ。隣の中学の美男美女が別れたって」
アタシはその話を聞きながらカエデにはブラックを、リンナには砂糖だけを入れてコーヒーを手渡す。
いつもはミクがコーヒーをいれてくれていた。
そのミクがまだ眠そうに目をこすりながらリンナの隣にすわる。
「はい、ミク。コーヒー、ミルクたっぷりな」
「………ありやとうごらいまふ」
目が閉じそうになりながら、ほとんどが牛乳のコーヒーを飲むミクをアタシ達は見守った。
「リンナは中学から目立ってたんだな」
言いながらアタシもソファにすわり、砂糖とミルクを入れたコーヒーを飲んだ。
「………エルさんも目立ってましたよ。私の憧れはエルさんでしたから」
「そりゃどうも」
やっと目が開いてきた寝起きメガネのミク。
「エルのウワサも聞いたことあったな。アンブレの追っかけが騒いでた」
「まあ、そんな時もあったよね」
カエデは懐かしそうに言ってから立ち上がり、コーヒーのおかわりを自分で作り始めた。
「ねぇ、エル。さっきのこと、二人にも言ってあげなよ」
少しイタズラな笑顔でリンナは言った。
「さっきのこと? あ、あれか。―――みんな、言いたいことがあるんだ」
アタシがそう言うと、ミクとカエデの視線がアタシを貫いた。
「―――今まで、ありがとう」
「エルさん! また解散なんて私は嫌です!」
アタシが言い終えるや否や、完全に目が覚めたミクが叫んだ。
カエデは冷静にアタシとミクを、そして笑いをこらえているリンナを見た。
「まだまだこれからじゃないですか! ちゃんとデビューだってしてないのに終わりなんて!」
「大丈夫だよ、ミク。アタシ達はもう解散しない」
それを聞いたミクは飛び越えてアタシに抱きつく。
「冗談でもやめてください。私、エルさんがいないのは嫌です」
もしあの時、高校に入ったばかりのアタシにミクがバンドを組んでほしいと言ってくれなかったら、きっとアタシ達はこれほどまでに仲よくはなれなかった。
「ごめん、ミク。もう言わない。アタシ達はずっと仲間で友達だよ」
ミクのメガネが涙でぬれていた。
「心配するなよ。アタシ達の未来はこれからだから」
「………絶対ですよ。エルさん」
「オッケー。任せとけ」
「そこにワタシも混ぜてね」
リンナはアタシとミクを抱きしめた。
「ウチも。その未来、支えてあげるよ」
カエデは後ろからアタシを抱きしめると耳元で小さく言った。
「みんなまとめて任せとけ。だから、何があってもアタシと一緒に行こう。未来へ」
不規則な睡眠のせいでその後は寝付けなくて、ゆっくりと静かにベッドを抜け出す。
「ん? ………エル?」
「あ、リンナごめん。トイレ、行ってくるね」
「………あい」
寝ぼけたリンナの顔は普段では見られないくらいにかわいい。
こんな顔を見たことがあるのは母親の陸さんとアタシ達くらいだ。
「まるで姉妹みたい」
ベッドに残してきた三人はバンドをやろうと始めてからは仲間で、アタシのかけがえのない友達で、大切な存在だ。
バンドを組んでからいろいろなことがあって、楽しいことも辛いことも、時々離れたこともあったけれど、一緒に過ごしてきた。
ほんとうの意味で、アタシ達は家族だ。
「すごく安っぽいドラマみたい」
アタシはトイレから出てくると自分で笑ってしまった。
使い古した言葉ではアタシ達の関係はちゃんと語れない気がする。
仲間、友達、家族。
当たり前に存在していても、当たり前じゃない存在。
アタシに母親がいなかったように、リンナに父親がいないように。
「―――リンナ?」
リビングに入るとリンナがソファにすわっていた。
「何か寝れなくなっちゃった。エルのせいだね」
笑いながらリンナはテレビを点けた。
「ユキちゃん、今日も黒いなぁ」
リンナはそう言って色黒のキャスターが伝える天気を聞いていた。
「そうだ、エル。コーヒーいれてよ。お父さん譲りで得意でしょ?」
「いつものインスタントでもいい?」
このカエデのマンションにはコーヒーミルも豆もない。
粉のコーヒーしかない。
「アタシ、ちゃんとしたコーヒーのいれ方は知らないよ」
「え? そうなの?」
「うん。今度帰ったら教えてもらうよ」
その時までに必要な物を用意しておこう。
アタシはマグカップにインスタントの粉を入れてお湯が沸くのを待った。
「ねえ、リンナ。変なこと、言っていい?」
「うん。いいよ」
リンナはテレビを聞き流しながら自分の載っている雑誌を読んでいた。
「―――今まで、ありがとね」
「え? ………どういうこと? また解散するって言わないよね?」
雑誌を見ていた顔を勢いよく上げて真剣な表情を向ける。
「ごめんごめん。そんなつもりじゃないよ。解散はしない」
「驚かせないでよね。ただでさえ、もしかしたらって三人で話してたんだから」
「そうなの? 心配させてごめん」
そんなことを話していたなんて想像もしなかった。
「デビューしたからそれはないって信じてたけど。ほら、ワタシ達メジャーデビューして解散したバンドの娘じゃん。あり得なくはないよねって」
「大丈夫だよ。アタシは妊娠してないし。リンナこそどうなの?」
「どうって、妊娠? ないない。ここ何年も男いないもん」
「ここ何年ってその前はいたの?」
「あー、読者モデルになる前ね。だから、中学生の頃かな。事務所入る前に別れたけど」
「そうなんだ。知らなかった」
「この話したの、友達のなっちゃんとエルだけ。ミクちゃんとカエデには内緒ね」
リンナがソファ越しに微笑むと小さな赤いケトルからけたたましい音とお湯があふれた。
「おはよー。二人とも早いね。何してんの?」
「エルがコーヒーいれてくれるって。インスタントだけど」
「えー、いいの? ありがとう。ミクー! エルがコーヒー作ってくれるってー!」
「………はーい」
寝ぼけたミクの声が小さく聞こえた。
アタシは四人分のカップにお湯を注いでいく。
「それで、リンナ。何がウチらには内緒だって?」
「聞こえてたの?」
「うん。でも最後だけね。ウチらに隠しごとはなしだよ」
「わかってる。昔の話だよ。読者モデルになる前のカレシの話」
「ああ、それって中学の時の話でしょ。ウワサにはなってたよ。隣の中学の美男美女が別れたって」
アタシはその話を聞きながらカエデにはブラックを、リンナには砂糖だけを入れてコーヒーを手渡す。
いつもはミクがコーヒーをいれてくれていた。
そのミクがまだ眠そうに目をこすりながらリンナの隣にすわる。
「はい、ミク。コーヒー、ミルクたっぷりな」
「………ありやとうごらいまふ」
目が閉じそうになりながら、ほとんどが牛乳のコーヒーを飲むミクをアタシ達は見守った。
「リンナは中学から目立ってたんだな」
言いながらアタシもソファにすわり、砂糖とミルクを入れたコーヒーを飲んだ。
「………エルさんも目立ってましたよ。私の憧れはエルさんでしたから」
「そりゃどうも」
やっと目が開いてきた寝起きメガネのミク。
「エルのウワサも聞いたことあったな。アンブレの追っかけが騒いでた」
「まあ、そんな時もあったよね」
カエデは懐かしそうに言ってから立ち上がり、コーヒーのおかわりを自分で作り始めた。
「ねぇ、エル。さっきのこと、二人にも言ってあげなよ」
少しイタズラな笑顔でリンナは言った。
「さっきのこと? あ、あれか。―――みんな、言いたいことがあるんだ」
アタシがそう言うと、ミクとカエデの視線がアタシを貫いた。
「―――今まで、ありがとう」
「エルさん! また解散なんて私は嫌です!」
アタシが言い終えるや否や、完全に目が覚めたミクが叫んだ。
カエデは冷静にアタシとミクを、そして笑いをこらえているリンナを見た。
「まだまだこれからじゃないですか! ちゃんとデビューだってしてないのに終わりなんて!」
「大丈夫だよ、ミク。アタシ達はもう解散しない」
それを聞いたミクは飛び越えてアタシに抱きつく。
「冗談でもやめてください。私、エルさんがいないのは嫌です」
もしあの時、高校に入ったばかりのアタシにミクがバンドを組んでほしいと言ってくれなかったら、きっとアタシ達はこれほどまでに仲よくはなれなかった。
「ごめん、ミク。もう言わない。アタシ達はずっと仲間で友達だよ」
ミクのメガネが涙でぬれていた。
「心配するなよ。アタシ達の未来はこれからだから」
「………絶対ですよ。エルさん」
「オッケー。任せとけ」
「そこにワタシも混ぜてね」
リンナはアタシとミクを抱きしめた。
「ウチも。その未来、支えてあげるよ」
カエデは後ろからアタシを抱きしめると耳元で小さく言った。
「みんなまとめて任せとけ。だから、何があってもアタシと一緒に行こう。未来へ」