絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 さすがに固まった。
「……」
「じゃあ、その伝票終わったら閉めるから、言ってね」
「え、あ、はい」
 その吉川の顔はいつも通りで。
 誘うとか誘わないとか、綺麗とかどうだとか……どういう基準で言っているのかが全く読めない……。
 苦手だな、この人……。
 苦手だと思っているのは自分だけだろうか……。
 それを、同じフリーの中島という女性にも聞いてみたかった。彼女はなかなか頭が冴えていて唯一仕事の相談に乗ってくれる働き者だ。一部、社員との不倫の噂も流れたりしているが、それを見積もっても、まあ信頼のおける人間の一人ではある。
 しかし、既婚者吉川のセクハラを含む不倫という話になると、中島の不倫の噂の方向に持っていかれる可能性も高く、さすがにそれを見越すと、相談しづらい。
 ただ少し、
「吉川店長って一緒に仕事したことあります?」
 と空いた時間に少し聞いてみると、
「ありますよ。なかなかいい人ですよね」
 と、それ以上返しようのない返事が返ってきて、
「え、あぁ、そうですよねー」
 の短い会話で終わってしまったのである。
 すぐに宮下の名前が思い浮かぶ。
 彼とは10日ほど、話をしていない。たった10日。
 移動して10日で吉川が変だと相談するのも、被害妄想だと思われかねない。やはり、もう少し様子を見るか……。
 そんな中、グッドタイミングで電話をかけてきてくれるのがやっぱりこの人。
 宮下昇、その人本人である。
 かかってきたは、公用の社内電話であった。
「久しぶりな気がするな」
「本当に! いえ、ちょっとお話したいなと思ったこともあったりで……」
「何? ま、いいか。うん、今日でもいいけど」
「じゃぁ今日、私遅いですけどいいですか?」
「うん俺も今日遅い。じゃあまた終わったら携帯に連絡する」
「あ、はい」
「それでだが、吉川店長はあいてるか?」
「はいすみません、少々お待ちくださいませ」
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