絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ

人の気持ちは変えることもできる

「そういう誘いなら、そういう誘いって最初から言ってくれれば良かったじゃない!」
「いやだって……」
「だっても何も、最悪」
「す、みません……」
「まあ、多少イケメンではあったけど」
 香月は予想以上に佐伯が落ち込み、真剣に謝罪の言葉を発したので「イケメン」という言葉でカバーしたことにする。
「うん、それはそうなんですよ」
「けどねえ、だからって……」
「それは、謝ります。ごめんなさい。けど、あの人は本気なんです」
「えー……」
「お店で何回か見かけて、半年くらい前から先輩のこと、好きなんです」
「うーん……」
「一回デートとか行ってみたらどうです?」
「えー……」
「好みじゃないですか?」
「うーん……」
 自分の怒りから始まったはずなのに、佐伯の質問攻めを何故うまくまけないのか自分でも不思議なくらいであった。
 何がどうって、仕事が終わった後に佐伯から電話がかかってきたと思ったら、ホテルのパスタ&ケーキバイキングなんてどうですかって誘い。割引チケットが2枚あるからって、休みも合っていたしほいほいついていったらこの有様だった。
「こんにちは」
 ってこのにこやかで眩しいほどにイケた大人紳士2人組は一体誰!? 2人ともナイスセンスなブランド物をあちこちにちりばめ、メガネから靴の先まで、エリートで高給取りで、ただのサラリーマンではない雰囲気がぷんぷん漂い、周囲の女性の目もぎらぎら輝いている。
 佐伯は偶然を装って「あっ、こんにちはー」なんて言ってるが、よそよそしすぎて不自然なのがばればれだし、一瞬で私一人だけ硬直。
 結局、「あぁ」「はあ」の二言で、4人で席につかされまさかの合コンランチ。佐伯は終始こちらの顔色を伺ってきていたが、完全無視。
 だからって一人だけ無言ってわけにもいかず、目の前にいたメガネの方のイケメンとそれとなく会話をしてみたりする。
「建築デザイナーってどんな感じなんですか?」
 まあ、興味がなかったわけでもない話題。
「今は駅前のビルの全体的なデザインを頼まれてて、それに没頭してるかな」
「駅前のビル……?」
「今空いてるとこあるでしょ? あそこ、ビルが建つ予定なんだよね」
 隣の佐伯の知り合いという、内装デザイナーの笹井が説明する。
「あ、そうなんですか、あそこかなり広いですよね」
「うーん、けど、ビルにしちゃ狭い方かな」
 笹井はパスタを上品に口にする。さすが、女性受け抜群の証だ。
「香月さんはどんなのが好みですか?」
「えっ、どんなのって?」
 メガネの松も、スマートに食事を続けていく。
「例えば、近未来的、モダン、和風」
< 115 / 202 >

この作品をシェア

pagetop