絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
うわあ……まずい展開ではないのだろうか。
「あの……すみませんでした、突然で。でも、こうやって会わせていただけるということで、とても助かりました」
 まあ、言うだけ言っておこう。
「お久振りですね」
「……え?」
 船内で会ったか? と思いをめぐらせる。
「あなたが人質にとられていたとき、最初に見張りをしていたのは私です」
「ああ、そうでしたか……」
 今になって思い出す、そういえば、人質にとられていたのだ。
 急に怖くなり、自分の行動が信じられなくなる。
「あの……あの事件、私、内容をよく知らないんですけど……一体どんな話だったんですか?」
「……それは、巽様に直接お伺い下さい」
「…………」
 言いかけて、やめる。この人はきっと、無駄話はしない。
 窓の外を見た。真っ暗な中で色とりどりのネオンがただ輝いている。
「もう着きます」
「……はい」
 今更緊張などしてどうする……。まさか、あのアクシアの店内で会えるなどと思ってはいなかったはずだ。
 シティホテルの地下で車から降り、メガネの男に連れられた香月は、金魚のふんのように後ろをつき、エレベーターに乗って巽がいる部屋へと向かう。
 着くなり男はドアをノックし、合図を得てから、香月だけ中に入るように促した。
 すぐ目に入ったのは、2つのベッド。その向こうに、大きな窓の夜景を背景にダークスーツの男が見えた。ソファに腰掛け、携帯で話をしている。
「あぁ、頼む」
 すぐに電話は切れる。
 巽はようやくこちらを見た。
「あのっ……、突然で……すみません!」
「……」
 彼はまずタバコに手を伸ばし、火をつけ、立ち上がった。
 そしてこちらにゆっくりと近づいてくる。
「聞くほどの用件かどうか興味がある」
 そのプレシャーやめてよね……。
 香月は俯き加減で、何をどう言い出せば、重要な用件に聞こえるのか必死で考える。
「えーと……その……」
 巽はどんどんと近づいてきて……、あまりに接近しすぎるので思わず一歩後ずさりをするが、こちらに構わず、目の前が重厚そうなスーツでいっぱいになる。
 カタン……という音が背後で聞こえ、ちらと振り返るとロックをかけていた。いちいちどきどきさせる人である。
「……で?」
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