絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
『レイジ さん』
 珍しい名前だ。
 かけなおそうとボタンを押し始めると、すぐに画面が切り替わる。
『もしもし』
 どうやら相手がすぐにかけなおしたようだ。
「はいはい、もしもし」
『家にユーいる?』
「えー?
 ちょっと待って……」
 隣の部屋をノックなく容赦なく覗く。
「え、いないよ」
『どこ行ったか知らない?』
「え、知らない」
『おかしいなあ。昨日の夜も約束してたんだけどね、来なくて。今日の仕事も来てないんだ』
「え、昨日? ……いたのかなあ、ごめん、私も全然気にしてなくて(笑)」
『いや。けど電話しても電波がないか充電がないかで繋がらないから、ちょっと心配してるんだけどね』
「え、そうなの? いつから? 昨日から?」
『うん、出ないことに気づいたのは、昨日。けど、最後に会ったのは金曜だったから……それ以降ちょっと分からないんだ』
「えー……待って。うーん、私いつ最後に会ったかな……、えーと、ちょっと家族の……あ、真籐さんにも聞いてみる。
 ……真籐さん、ユーリさん最後に見たの、いつです?」
「え、ユーリさん? えーと、いつだったかなあ……」
 真籐も心当たりがないのか、宙を仰いだ。
「なんか、昨日から連絡とれないらしいんですけど、知りません?」
「え、さあ……全く。うーんと……」
 真剣に眉を顰めたが、すぐに答えは出そうにない。
「もしもし、レイジさん? ちょっと考える。どうしよう、折り返そうか? いつから帰ってきてないか、マンションのセキュリティ見たら分かるし」
『うん、ちょっと調べてもらえるかな。こんなに長い時間音信不通で家にもいないとなると心配だし』
「そうだよね、家以外に行くとこなんて、仕事くらいしかないもんね」
「あ、そうだ……」
 隣で珍しく真籐が言葉を乱した。
「えーと、金曜。ユーリさんが夜は家で食べるって言ってたんですけど、僕昼から用事で外出て作りそこねて……そのことを言おうと思ってたんですが、それから会ってないです」
「え、嘘! いつ!? 金曜の……朝が最後?」
「はい」
「もしもし、真籐さんは、金曜の朝に会ったのが最後だって! 私は全然覚えてないけど、とりあえずセキュリティ確認してもらう」
『わかった。とりあえずそっち行くよ』
「うん」
 電話はすぐに切れる。
「ユーリさんに会わないことに気づくって、なかなか難しいですよね……」
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