絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
何か考えている真籐に話しかける。
「そうですね……」
「物音も立てずにパソコンに向かってることがほとんどだし。
 あ、ちょっとロビーに行ってきます。確認はすぐにとれると思いますけど」
「僕も行きましょうか?」
「いえ……レイジさんが来るって言ってましたから、いてください」
「分かりました」
 すぐに玄関から外に出た。
 まさか、大の男が誘拐なんてあるはずがないし……。借金でもあって……、どこかに消されたか。もしくは、突然倒れて名前確認ができてないか……、どうしよう、病院も当たった方がいいのかな……その前に警察か……、警察、嫌な響きだ。
 ロビーで書類を書かされている間に職員がすぐに検索をかけてくれる。ものの5分で処理は終わった。
「先週の金曜日の昼頃ですね、出ていかれたのが最後です」
 渡された一枚のプリントを見つめてそれが事実であるということを思い知る。
 行方不明。
 まさか、あの明るくていつもバカばっかりやっている、ユーリが?
「愛ちゃん!」
 背後から響く声で呼ばれてすぐに我にかえる。
 黒尽くめのレイジはテレビから飛び出してきたのだろう、いつもの格好より一段と決まって派手で目立っていた。
「あ……やっぱり、金曜日に出たのが最後だって。それから帰ってきてない」
「4日か……、実はね。ちょっとあそこ、座ろうか」
 あんまり呆然と立ち尽くしていたせいか、彼は気を遣い、休むことを勧めたかったのだろう。だが、今香月がそのような表情になったのは、レイジの周囲からの視線を全く気にしない、その風格であった。
「あ、うん」
 ロビーの一角にあるソファに腰掛る。
「実は、金曜は仕事に来てたんだけどね、帰りに女の人と帰ったのを見た人がいて」
「えっ、かけおち!?」
 そんなまさか、あの能天気なユーリが!?
「いや、そんなことする奴じゃないとは思うんだけど……、なんか思いつめたような女の人が長い間外で待ってて、ユーが出てきた途端、走ってきてさ、で、2人で帰って行ったって。それが、最後」
「えー……その女の人、誰か分からないの?」
「誰も知らないみたい」
「彼女がいたんだ……」
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