絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 立ち上がる香月を制することもなく、
「送るよ」
 冷蔵庫に缶を戻してリビングに戻る。
「え、いえ、大丈夫です。一人でも帰れます」
「何を言ってるんだ(笑)」
 笑いながら、廊下の後をもちろん付いていく。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「何?」
 急に立ち止まったので何かと思ったら、
「その、宮下店長の気持ちを、私はどうすればいいですか?」
 実に良い質問。
「……、そうだな、香月はどう思った?」
「え……いえ、ただただびっくりするばかりで……」
「まあ、そうだろうな。何か問題があったとき、またはありそうなとき、そのことを思い出して相談してくれればいいよ」
「えっ、あ、そうなんですか」
「何?(笑)」
 宮下は笑う。
「いやこう……お付き合いするとかしないとかの、そういう話かと思って……」
「付き合いたい?」
「えっ!? い、いえ、そういうわけでは……」
「うんそれは特に期待してない。香月が俺のことをそういう目で見てないことは分かってるから」
「え、あ、はあ……」
「仮に香月が付き合ってもいいというなら、その時はそうすればいいけど」
「え……」
「まあ、それは仮の話で。俺の今の気持ち……というか、香月に対する気持ちはそうってことだから」
「あ、なるほど」
「今何を納得した?(笑)」
「従業員を好きになることは大切だぞ」
「え……?(笑)、まあ、いいけど」
 2人は靴を履いて外に出る。
「香月……」
「はい?」
 駐車場までは少しある。
「嫌なら言わなくていい。けどちょっと聞きたいから聞く」
「え、はい」
「前、総会で会ったイギリスの医師のことなんだが……」
「はい」
 香月は前を向いた。
「好きなの?」
 香月は即答する。
「多分きっと」
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