主婦だって恋をする

「……目玉焼き」



答えてから私は気を引き締めた。


私が他の人に心を移しているのは事実だけれど……

あの人を悲しませたい訳じゃない。

優しい夫の笑顔を奪わないために、慶とのことは絶対知られてはいけない……



「――ね、映画でも観に行かない?」



私は少し火の通りすぎた目玉焼きをトーストに乗せて、一口かじって言った。



「何か観たいのあるの?」


「うん。好きな俳優が出てるのがあって……」


「いいよ。今日は成美がしたいこと、しよう」



夫はにこやかに言って、食事が終わると後片づけまでしてくれた。


今日は慶のことは考えずに……夫婦で素敵な誕生日にしよう。


そう心に誓って、私は出かける支度を始めた。


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