惑溺
「ねぇリョウ。
リョウははじめから知ってたの……?」
私のその震える声の問いかけに答えずに、リョウは私の手をとった。
指先に塗られた赤いネイル。
目を伏せてその艶のある赤を見下ろしながら、優しく私の爪をなでる。
「もう開店時間だから、俺の部屋で待ってて」
低く艶のある声でそう言いながら、ポケットから出した銀色の鍵を私の手のひらに置いてゆっくりと握らせた。
待っててって……。
手のひらの中の固い感触に戸惑いながら彼を見上げると、リョウはまっすぐに私を見ていた。
「ここじゃいつ客がくるか分かんないから、ゆっくり話せないだろ。
どうせ自分の家に帰ったって気になって落ち着かないんだから俺の部屋で待ってろよ。
たぶん帰るのは明け方になると思うけど」
ゆっくり話す必要なんてない。
私はただ、リョウが一体何を考えているのか知りたいだけなの……。
それに、またあの部屋に行くのが恐かった。
あの部屋でリョウとふたりきりになるのが、恐かった。