惑溺
 
「博美ちゃん。
悪いけど、由佳と二人で話をさせてもらえないかな」

「あ、はい……!」

聡史の言葉に、博美は慌ててバッグを持って立ち上がった。
席を立つ瞬間、手を伸ばしもう一度さっき握っていた私の腕をぎゅっと掴んだ。
痛いくらいに握られた腕。力をこめられた指先。

ただそれだけで、頑張れって言われたような気がして、胸が熱くなった。

「由佳、じゃあ」

「うん」

出口へと歩いていく博美の後姿に向かって、ありがとうと心の中で叫んだ。
そして、私の隣に座った聡史にゆっくりと向かい合った。


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