惑溺
 
お店も、街路樹も、綺麗な電球と鮮やかな広告で彩られ、いつの間にかクリスマスムード一色になった、彩られた街をぶらぶらと歩いていた。
まるで互いの幸せを競い合うように、すれ違う人々はみんな笑顔でイルミネーションを見上げる。

どこかから聞こえるクリスマスソング。
行きかう人たちの足音。
楽しげな笑い声。

その中で私はひとり下を向いて歩く。
自分の口から吐き出される白い息が、やけに儚く寂しく感じた。

家に帰ろう。
ゆっくりと丁寧に入れた温かいコーヒーを飲みながら、読みかけの本でも読もう。

そう思いながら地下鉄のホームへと降りていった。
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