惑溺
「じゃあ、そろそろ行こうかな」
カクテルの入ったグラスを空にすると、由佳はそう言って立ち上がった。
バッグから財布を取り出す彼女に金はいいからと言いながら、手を伸ばし金庫脇の引き出しを開く。
そこに入っていた銀色の物を取り出し、手の中に隠す様に持ってカウンターから出た。
「ありがとう、ごちそうさま」
そう言って微笑む由佳にコートを手渡す。
コートのボタンをとめている隙に、彼女のバッグの中に手の中の物を滑り込ませた。
なんの変哲もない、銀色の鍵。
三年前も同じように手帳に紛れ込ませて由佳に渡した、マンションの合鍵。