惑溺
 
『じゃあ丁度いい。
俺も店10時くらいには上がるから、俺の家で待ってて』

「え?」

待ってて、って……。

『それ、俺の部屋の鍵だから勝手に入ってて』

いや、彼女でもないのに。
勝手に部屋に入って待ってるなんて、そんな事できないよ。

そう、反論しようと思った時にはもう電話は切れていた。


少しの会話で疲れ切った私は、電話をかけ直す気力もなく手にしていた携帯電話をベッドの上に放り投げた。
大きくため息をついてコーヒーを一口飲む。

すっかり冷めたコーヒーはなんだか酷く苦かった。









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