さくら色 〜好きです、先輩〜


「…何?」


男子生徒はピタッと足を止めると、怪訝な表情で振り返った。


「えっと…その…」


勢いで声を掛けてしまったけど、何をどう話せばいいのか頭が回らない。

私はごくっと息を呑んでおずおずと口を開いた。


「…も、もしかして、桜井先ぱ…「「葵ーーー!!」」

「…那奈」


声の方へ目をやると、那奈が昇降口の方から走って来るのが見えた。


「…それじゃ」

「あっ、ちょっと…」


咄嗟に呼び止めたけど、男子生徒は止まることなく行ってしまった。

私はその背中をただ見つめることしか出来なかった。



「お待たせ!ごめんね」

「ううん。大丈夫だよ」

「今の人、知り合い?」

「いや、中学の先輩に似てるなって思ったんだけど…」


似てた…

ううん、似てたなんてもんじゃない。


後ろ姿も歩き方も、低い声も…

間違えるわけない。


ずっと先輩を見てたんだもん。

卒業してからも、一度だって忘れたことない。


あの人は間違いなく桜井先輩だった。


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