時は今
「…雛子、四季くん以外に好きな人、出来るのかな」
雛子は苦笑気味に話し出す。
「新しい恋が出来るものなら、そうしてみたいって思ったわ。でもダメね。四季くん以外の人を見ても心が動かない。音楽をしていても、四季くんの音を、つい思い出してしまう」
「…僕、今、高遠さんにどう言葉を返していいのかわからない」
雛子自身でもないのに。
「僕が死んでしまったものと思って生きてみたら?」
突如、そんな言葉が四季の口から発せられた。
「え?」
「僕はこの世の何処にもいない。そう思って生きてみたら?そうしたら、少なくとも高遠さんは、僕に見返りを求めなくなると思う。見返りを求めない気持ちをどう育てるのか、その努力は、高遠さんはまだしたことはないんじゃない?」
「…四季くん」
「僕はもしかしたら、今、ここには生きて立ってはいないかもしれない人間だった。でも、誰かが繋ぎとめていてくれたから、ここにいる。僕が今、高遠さんに優しい言葉をかけることは簡単だけど、そのままだとたぶんいけない気がする」
「……」
「何もかもがひどいようにしか思えない状況は必ずある。周りの人間がわざと自分を追い込んでいるのではないかと思うこともある。それが本当だったとしても、そんないじめ体質の考え方は僕は好きじゃない。でも僕は自分できちんと考えていたら突破口はあった。高遠さんに自ら突破口を開けるのか、それは僕にはわからないけど」
雛子は歌でも聴いているような心持ちでいた。
四季は雛子の持っている衣装に目をやる。
「そういえば、衣装を一緒に作るって言ったのにね」
「…そうね」
「教室に戻る?」
「戻るって衣装を作りに?」
「そうだよ」
「だから私、邪魔じゃないの?」
「そんな卑屈なこと、自分から言うものじゃないよ」
四季は微笑んだ。
「誰にも都合が悪くない人間なんている?人のことを簡単に邪魔だという人もずいぶんわがままだよ」
すっきりとした四季の言い様に、雛子は「それもそうだ」と思った。
立ち上がって、持ってきたものをまとめ始める。
「四季くん、雛子のこと好き?」
「…懲りないね、高遠さんも」
四季はやや閉口気味だ。