ヒーローズ
その日の学校で、市原さんは俺の前に現れることは一度もなかった。


ただ彼女が学校に来ていることは確かだ。休み時間になるたびに、うちのクラスの連中はせっせと3組に足を運び「癒されたあ」と言って帰ってくる。


何も接触がないってことは、やっぱり放課後までおあずけってことだよな。


ポケットの中のICカードをいじりながら欠伸をひとつ。


今日最後の授業はあと5分だ。


――リリリンッ


授業が終わってしばらくして、黒電話みたいな音がポケットから響いた。

見てみると今日の朝届いた、アイフォン的なヤツが着信を知らせ光っている。



「もしもし」

「こんにちは。あたしよ、市原。今から屋上に来れる?」

「もちろん、すぐ行く」

「うん待ってる」



カラオケに行こうと、すでに酒を飲んだみたいに騒いでる羽柴たちに、行けないことを伝えると、「付き合い悪いわよお」と、またカマ声でで言われた。

また朝のネタかよと思いつつ、でも前からの約束をパスすんのは悪いと思い、ちょっとノッてやる。



「アンタ達と違って、アタシは暇じゃないの!」


そう言えば、「キィー、むかつく!」と、ハンカチ噛むふりして悔しがる羽柴。

あぁ、残念だよな。
盛大に笑いがこぼれる。


「じゃ、また明日な」

「おう、また明日!次はすっぽかすなよー」


ひらひら手を振って教室を出た。先生がいないのを確認して屋上に向かう。


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