三日月の下、君に恋した
「おまえが? 都心の高級マンションに住んでるくせに、こんな古い家に興味あんのか」

「俺が住むんじゃねーよ。古民家に住みたがってる知り合いがいるから、改装して貸すんだよ」


 リョウは縁側に膝をついて、暗い部屋の中をのぞきこむ。

「荷物、片付けないとな」

「わかった。四月までには片付ける」


 いつまでもこのままにしておくわけにはいかないし、いい機会だった。やっと踏ん切りがつく。

「手伝ってやろーか?」

 振り向いたリョウの顔が何か思惑を含んでいるように見えて、航は顔をしかめた。


「手伝ってやるから、週に一度は俺の原稿を読め」

 何だ、そんなことか。

 それなら、言われなくてもそうするつもりでいたのだが。


 リョウは暗い部屋の中をのぞきこんだまま、

「これ以上新作が遅れると、俺の読者がブチ切れて世界中で暴動を起こしかねねーからな」と言った。
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