三日月の下、君に恋した

　あれほど深く豊かな世界を紡ぎ、人の心をとらえて離さない作品を書ける人が、誰からも嫌われるようなわかりやすい人物だとは、菜生にはどうしても思えなかった。

　航の説明がひととおり終わると、出席者の中からいくつか質問が出た。彼が答えようとすると、梶専務が強引に口を挟んで説明を始めた。

　その説明が回りくどいうえに、結論が出ないまま長々と続くのには、菜生もうんざりした。終わりのほうでは、会議室はすっかり白けきって誰も真剣に聞いていなかった。


「ひとことだけいいか？」


　ようやく会議が終わろうとしたとき、葛城リョウが口を開いた。全員が動きを止め、息をのむ。


「あんた、もう来なくていいよ」


　強い口調ではっきりそう言うと、人差し指を梶専務の顔の真ん中を貫くように差した。会議室の空気が一瞬で凍りついた。

　彼は大きなあくびをすると、背伸びをして席を立った。そのまますたすたとドアに向かう。

　部屋を出る直前、ドアの前でくるっと振り向き、呆然として言葉を失っている梶専務に、さらに痛烈なひとことを浴びせた。


「あんたの顔、俺の好みじゃないんだよね」