三日月の下、君に恋した
「あー、ごめん。今日中にかけるつもりで……遅くなった」

 部屋の時計を見た。もうすぐ十二時になろうとしている。


「もしかして、まだ会社ですか?」

「うん。今から帰るけど」

「えっ、だって終電。電話なんかしてる場合じゃ」


 電話のむこうで低く笑う声がする。


「今、エレベーターに乗った。大丈夫だよ」

 耳に伝わるやさしい声がくすぐったい。だけどやわらかな雰囲気はすぐに消えて、少し緊張した声に変わった。


「それで……謝らなきゃいけないんだけど。その、どうもしばらく時間がとれそうになくて。あんな偉そうなこと言っといて、ごめん」

「今日の企画の件……ですか」

「うん、まあ。いろいろ」

 やっぱり、彼はあの企画を進める気でいるのだ。

「あの、ひとつだけ聞いてもいいですか」

「何でも」

「葛城先生とは、以前からのお知り合いですか」
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