三日月の下、君に恋した
 マンションの部屋の前までくると、菜生はドアの鍵穴にそっと鍵を差し込み、音をたてないようにしてドアを開けた。

 玄関で静かに靴を脱いでいると、美也子がずかずかやってきて菜生の目の前に立ちふさがった。


「どこ行ってたんですかあ? 心配したんですよっ」

「あー。ごめん。残業の帰りに友達とバッタリ会って、飲んでたら盛り上がっちゃって、気づいたら終電逃してて、その子ン家に泊めてもらったんだ」

 自分でも白々しい言いわけだと思いながら、菜生は美也子の反応を待った。


「ふーん。めずらしいですね。菜生さんが朝帰りするなんて、はじめてじゃないですか?」

「そうだっけ」

「そうですよ。しかも無断で。よっぽど楽しかったんですねえ、電話入れるのも忘れるほど」

「ねえ、美也ちゃん……」


 もうこれ以上の嫌味には耐えられない。菜生は訴えかけるように美也子を見た。

「ハイハイ。わかってます。『お互いの生活に干渉しない』でしょ?」

「思い出してくれてありがと。じゃあそういうことで」

 菜生は美也子を押しのけて足早にリビングを通りぬけ、自分の部屋に向かった。
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