三日月の下、君に恋した
 一年前、美也子の姉夫婦が海外転勤することになって、その間の留守番もかねて、分譲マンションの十一階にある3LDKの部屋を二人でルームシェアすることになった。

 どちらかというとひとりでいるのが好きな菜生は、あまり乗り気ではなかったけれど、ひとりじゃ寂しいという美也子にしつこく誘われて承諾した。そのとき彼女と交わした約束が、「お互いの生活に干渉しないこと」だった。


 菜生は南側のベランダに面した明るくて小さな部屋に入ると、ドアを閉めた。とたんに張りつめていた緊張がとけて、膝ががくがく震えだす。


 くずれるようにその場に座りこんで、抱えた膝に頭を強く押しつけた。じっとしていると、体中から記憶がよみがえってきて、たちまち内側に火のような熱が広がる。

 菜生の体のすみずみまで探った彼の手の感触や、重なり合ったときに感じたしなやかでたくましい体や、耳もとでささやくように名前を呼ぶ低い声が、菜生の体の奥深くを貫いた快感とともに強く刻み込まれている。今も、ベッドの中にいるみたいにはっきり思い出せる。


 どうしよう。
< 15 / 246 >

この作品をシェア

pagetop