三日月の下、君に恋した
 郵便局の赤いポストの前で、彼は足を止めた。見られていることを気にするそぶりはまったくない。菜生のほうが、視線を浴びることにとまどっている。

「あいつのことは昔から知ってる」

 冗談だと言って笑い出すのではないかと思ったけれど、グレーの瞳はまっすぐ菜生を見ていた。


「昔って……いつからですか」

「十代の頃から」


 菜生は耳を疑った。二人が知り合いではないかと勘ぐってはいたけれど、そんなに前からだとは思ってもみなかった。

 予想しなかった答えに軽いパニックを起こして、何をどう考えればいいのかわからなくなった。


 それに、航が自分に嘘をついたことを知って、傷ついてもいた。彼が菜生についた嘘は、これだけではないと、同時にはっきりとわかった。


「葛城先生は、何か、知ってるんですか」

「何かって?」

「わかりません……私にも」
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