三日月の下、君に恋した
 今まで、どれほど興奮していても菜生の体の一部は冷めていて、自分自身をちゃんと把握することができた。どんなときも見失うことはなかった。


 なのに、昨夜はできなかった。

 何もかも消えて、自分がどこにいるのかわからなくなっていた。一瞬で、嵐に飲みこまれたみたいだった。あんなに激しく乱れたことは一度もなかったと思う。思い出すたび、ショックを受ける。


 寝不足で目が腫れているのはわかっていたけれど、どうせ眠れないこともわかっていた。菜生は着替えを手にして部屋を出て、バスルームに向かった。

 バスタブに熱い湯をためて、お気に入りの香りの入浴剤を入れた。昨日からの服を脱いで裸になり、背中に垂れる髪を頭の上でまとめる。湯の中に足を入れて、ゆっくり体を沈める。生き返るような心地がする。


 目を閉じて、しばらく頭の中を空っぽにして、この心地よさに浸ろうとするのに、うまくいかなかった。湯船の中の自分の裸を強烈に意識してしまう。
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