三日月の下、君に恋した
「待ってください、専務」
会議室を出ていこうとする専務を呼び止めると、何人かが振り向いた。そしてさりげなく目をそらしてドアに向かい、二人を残して全員が会議室からいなくなった。
「もう一度、検討してもらえませんか」
梶専務は意に適ったような光る目で航を見て、「だめだ」と言った。
「もう決まったことだ。この件は忘れろ」
「ですが、葛城リョウを降ろして次の候補を探している時間はありません。この企画に適した人材は彼以外にいないと思います。第一、企画書を起こしたのも彼を採用したのも専務ご自身ではありませんか」
「私だって残念だと思ってるんだよ」
梶専務が深々とうなずいた。共感しているようなそぶりがわざとらしい。
「だが、あんなことを言い出されたら、こちらとしても対応の仕様がないだろう。彼の出した条件には、納得できる根拠も理由も存在しない。誰が聞いても必要だとは思えない条件だ。社長は彼のために絵を描く気はないと言っている。これ以上、彼の子供じみた我儘につきあう必要はない」
「ですから」
航は落ち着けと自分に言い聞かせた。
「私に、社長と話をさせてください。葛城先生の意向を説明しますから」
「意向? ほう。そんなものがあるのか。だったら聞こう」
「……社長に直接説明する機会をいただけませんか」
「おそらくそんな暇はないだろう。私から社長に伝えておく」